コース長 那須清吾教授 インタビュー

那須清吾

多様性こそ、価値創造を成功に導く鍵。

- 起業マネジメントコースのめざすところは?

起業と言うと、一度きりの行為という印象が強いのですが、我々は不断に新たな事業を企て続けることを起業ととらえています。つまり、起業=価値創造と見ることで、既存の企業が抱える事業創造、業態転換、経営革新などのさまざまな課題解決に向けた取り組みも対象範囲とする ことができると思うのです。
元コース長である加納剛太先生は、技術者の持つ高度な技術を生かして価値創造し、新たな起業につなげるプロセスの体系化をめざそうと起業工学という概念を提唱しました。我々はその考え方を起点とし、工学技術の価値創造を基本に歩んできましたが、時代の流れととも に研究分野は大きく広がってきました。
今後は起業工学という概念は根幹に残しながらも、さらに多様な分野で課題解決や価値創造を行うことのできる人材の育成をめざしていきます。そして、自らの経験を活かして知を体系化したいという意欲を持った多様な立場のみなさんに、最適な教育プログラムの提供と研究活動のバックアップを行います。

- 起業マネジメントコースの指導体制や学びの特徴は?

経営学の理論を体系的に講義するとともに、現場のリアリティあふれる事例をできるだけ教材として取り上げたいと考えています。実際に動 いている現実を見ながら、それを論理的に整理していくという起業の本質を学ぶことに力を注いでいきます。
教員の専門分野は経営学に限らず、工学、理学、農学、薬学など自然科学にも広く及び、この多様性が本コースの大きな特徴です。例えば、工学の教員と経営学の教員がペアで指導したり、課題解決に取り組みたい分野の専門家がコース内にいない場合は学内全体でバックアップし、場合によっては学外の専門家を指導教員として招くことも可能です。
こうしたさまざまな方法で専門家と実務家たちが深く連携しながら、学生の学びを支援していきます。社会が複雑化し、課題解決や価値創造に多様な分野の連携が不可欠になってきた今の時代、文理融合による教育・研究は我々の大きな強みであると自負しています。
さらに、固定観念や単一な視点を打ち破り、多様な分野の多角的な指導を進めるため、集団指導体制を採用しています。東京と大阪で月に数回実施しているセミナーでは、複数の教員と学生だけでなく、卒業生や教員のOBなど、あらゆる立場の人たちが集まり、学生一人ひとりの研究発表について、遠慮なく疑問や意見をぶつけます。指導教員の単独の目で見るのではなく、多様な分野の人たちが研究を徹底的に叩いてくれる。そんな場を通して、学生たちは研究の正しい方向性を速やかに発見 していきます。

- 修士課程と博士後期課程の主な違いは?

修士ではまず経営学の基礎科目をしっかりと習得することが先決です。その上で、地域産業振興論や起業工学概論といった応用科目を学んでいきます。基礎とそれらを実践に生かす応用の両輪で知のベースを築き、社会的なインパクトのある研究活動へと進んでいきます。
博士ではさらに論理性や新規性が要求されます。博士論文でそれらが認められることで、博士の学位を取得できます。

- 社会人が大学院で学ぶ意義とは?

MBA取得を目的とした大学院教育では、定式化されたスキルの習得に力点が置かれる場合が多く、それに対して、本コースではスキルを超えた課題解決や価値創造ができるマネジメント能力を見据えているところが特徴です。その力を獲得できれば、どんな立場であっても有能な人材として生きていくことができるでしょう。そのことが、社会人が大学院で学ぶ大きな意義であると考えています。

- 身に付けるべきマネジメント能力とは?

マネジメント能力とは、課題を素早く発見し分析し、それに対する解決方法に気づき、具体化できること。その結果が課題解決や価値創造です。例えば、経営戦略論やマーケティングを学んだからと言って、すぐに経営ができるわけではありません。幅広い学問を網羅的に習得しなければ、実践することは難しい。つまり、マネジメント能力を獲得するには、基礎と応用の科目学修、そして実践的能力を身に付ける研究という3つをこなすことで、バランスよく知識とその応用能力を習得することが不可欠と言えるでしょう。

- 研究活動のプロセスは?

経営的課題には多様な要素が複雑に絡み合っているため、単独の学問で解決することは不可能です。そこで、最低3つの専門領域を持ち、それらを組み合わせて研究を進めることを必須としています。
そのプロセスは、まず疑問を持つことから始めます。そこから、その疑問がなぜ起きるのか、どう解決すればよいのかという研究目的が生まれます。次に、それをどう研究するのかという研究方法を考えていく必要があります。
工学は、多くの場合まず論理を仮説として提示して、実験しながら証明していきます。一方、経営学はどちらかと言うと現象が複雑なので、まず現象を観察し、それを詳細に記述することで裏に潜んでいる仕組みを洞察する記述的推論方式が多い。それぞれに特徴はありますが、複雑な課題解決や事業創造・起業には複合的なアプローチが必要です。つまり理系文系に関わらず、研究目的のために必要な研究方法をどのように設計するのかが重要なのです。研究というのは、確からしい論理についての不確実性を下げる行為であり、その点では工学と経営学の研究の間に区別はありません。分野の枠にとらわれず、研究方法を柔軟に開拓していくことが求められます。
こうした研究方法を自ら構築できる力も、マネジメント能力の一つ。研究のプロセスを体系的に学ぶことは、実社会でも大いに生きてくるはずです。

- 卒業生の活躍状況は?

実際に起業している方々のほか、経営者の方は新たなビジネスをつくったり、企業の社員の方は企業内で新事業を立ち上げたりと、それぞれの立場で学びを実践の場に生かしています。
博士号を取得した卒業生は、大学教員になっている割合が高く、特に最近増えてきた地方創成を掲げる学部での活躍が目立ちます。これも、社会に対してインパクトの大きい価値創造ができる人材へのニーズが非常に大きいことの表れだと思っています。

- 求める学生像は?

業種や立場は問わず、多様な方々に本コースの門を叩いてほしい。現に今の学生さんも経営者、会社員、行政職員、個人で起業しようとしている方など、バックグラウンドはさまざまです。複雑な社会にあって、多様性を持ち続けることが価値創造を成功に導く鍵になると確信しています。多様な学生のみなさんと、多様な分野の研究を深めながら、我々も一緒に進化を続けていきたいですね。

 

 那須全身 那須 清吾 教授 NASU,Seigo
専門分野/行政経営、公共経済学、社会マネジメントシステム学                                                                                             大阪府の出身ですが、3歳から9歳までアフリカのケニアで過ごしました。アフリカというと広大なサバンナや 砂漠などを思い浮かべがちですが、当時のケニアの首都ナイロビは、日本のどの都市よりも近代的でした。英語とスワヒリ語を操って日常生活を送っていた幼少時の経験が、グローバルな感覚や物事を俯瞰して見つめる力を身につけた基礎となっているのかもしれません。普段の趣味は寺巡り。各地での出張の際には、気に入った寺に立ち寄るのが楽しみの一つになっています。歴史ある建物の風情やその成り立ちに思いを馳せる時間が大好きです。なかでも気に入って何度も訪れているのが、高知県土佐市の青龍寺。弘法大師が唐の長安から帰国して初めて造営したといわれる由緒ある寺で、そこに佇むだけで心が落ち着きますね。